運営委員長挨拶

運営委員長挨拶

 東京言語研究所は1966年3月、故服部四郎博士(東京大学教授、当時)の構想をもとに開設されました。当時の日本には、大学システムの制約上、満足のいく言語学の教育体制がほとんど存在しないことに強い危機感を持たれた服部博士は、大学の枠を超えて、才能や適性のある人々に言語学の重要性と面白さを認識させる「言語学の塾」を創設しようと考えられました。

 その構想に沿って、研究誌や月刊誌の刊行、公開講座や国際セミナーの開催など数々の企画が実行されました。その中核に位置づけられていたのが、1966年5月以来、休むことなく毎年開講されてきた理論言語学講座です。これは、第⼀級の教授陣を配した、体系的なカリキュラムからなる言語科学専門のコースです。1960年代と今日とでは、言語学環境は大きく変わりましたが「言語の理論的研究に裏打ちされた真の言語学基礎教育をおこなう」という講座の目的・理念は今でも変わっておりません。

 その⼀方で、理論言語学講座も21世紀の言語科学が向かう先を見据えて、新しいカリキュラムを構築し、人々の現代的要請に応えようとしております。2016年に研究所が開設50周年という重要な節目を迎えたのを機に、今後の理論言語学講座のあり方についていろいろ検討を重ね、2017年度から理論言語学講座の開講時間と時間割を大幅に変更いたしました。具体的には、毎日2時限(各90分)x11週という時間割から毎日100分の1時限制に変更し、また講座を原則として半期制にしました。1日に受講できる授業数は減りましたが、授業開始時間が6時から7時に変わったことに伴い、仕事や大学の授業を終えてからの参加が容易になったのではないかと思われます。またこの改革に伴い、理論言語学講座の授業が⼀部、集中講義として実施されることになりました。また2020年からはコロナ禍に対応するためにオンラインの授業が導入され、首都圏以外の方々の受講も可能になりました。

 本研究所では、このような形で理論言語学講座の⼀層の充実を図ると同時に、以下のような多彩な事業を毎年企画しています。

  1. (i)キックオフである春期講座
  2. (ii)ことばと関連した諸分野の第⼀線で活躍されている講師による公開講座
  3. (iii)理論言語学の専門家を講師に迎える集中講義
  4. (iv)教師のためのことばワークショップ

⼀人でも多くの方々に理論言語学講座を受講していただき、ことばについて真剣に考えることの楽しさと奥深さを共有していただければ幸いです。

西村 義樹(東京言語研究所運営委員長)
2023年4月1日就任

西村 義樹
東京大学文学部(言語学研究室)教授
1989年東京大学大学院人文科学研究科博士課程(英語英米文学専攻)中退。
『構文と事象構造』(共著、研究社、1998)、『認知言語学Ⅰ:事象構造』(編著、東京大学出版会、2002)、『明解言語学辞典』(共編著、三省堂、2015)、『日英対照 文法と語彙への統合的アプローチ:生成文法・認知言語学と日本語学』(共編著、開拓社、2016)、『メンタル・コーパス:母語話者の頭の中には何があるのか』(共編訳、くろしお出版、2017)、『認知文法論I』(編著、大修館書店、2018)、『慣用表現・変則的表現から見える英語の姿』(共編著、開拓社、2019)、『認知言語学を拓く』、『認知言語学を紡ぐ』(いずれも共編著、くろしお出版、2019)など。